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 抱きたい…
 
 抱きたい…
 
 
 この手に…
 
 
 この腕の中に…
 
 
 「にゃぁっ、大石〜」
 3-1組の教室で我が物顔で大石の席に座ったままエージが質問をした。
 「にゃんか、手塚って最近寝てばっかでない!?」
 
 「…そう、だな…」
 
 不二がいなくなってからなんだよ…
 大石は心の中でそっと続ける。
 最近の手塚は空気を入れすぎた風船のようで、触ればすぐに破裂しそうだ…。
 
 「にゃっ、そろそろ部活の時間だよ…」
 「あぁ…」
 大石は手塚の肩にそっと手を置いて揺さぶった。
 起きろ、と。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ねぇ、起きてよ、手塚」
 
 肩を揺さぶられて目を覚ますとちょうど逆光になる位置に誰かが立っていた。
 あまりの眩しさに手をかざす。
 
 「ほら、ちゃんと起きて」
 ちゅっ、と柔らかな唇が手塚の目元に降ってくる。
 
 「不二…」
 そっと手を伸ばして抱き寄せる。
 トクン…トクン…
 心臓の鼓動が聞こえる。
 
 ふいに切なくなって抱きしめる腕に力を込めた。
 
 すると、突然不二がそっと顔を近づけてきてふわっと笑う。
 その微笑に癒されながら、よけいに抱きしめると、不二が頬を寄せてささやいた。
 「なぜ泣いてるの!?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 再び肩を揺さぶられる。
 
 「なんだ、不二…」
 そう言って目を開けてみると、目の前にいたのは大石と菊丸だった。
 
 大石はしばらく俺を見て淋しそうに目をそらした。
 
 何か気まずそうな雰囲気が漂い始める。
 
 !!!
 …そうだった。
 心臓が早鐘を打ち始める。
 
 …今のは…夢…か…。
 不二はもういないんだっ…た…。
 
 腕を伸ばせば届いたのに。
 抱きしめれば暖かかったのに…。
 
 もう…触れることもできない…。
 
 眠い。
 とても眠い。
 眠っていたい。このままずっと。
 
 現実を捨て、未来を捨て、誰に何を言われようとも。
 
 このまま俺を眠らせてくれ。
 
 
 
 眠れば…不二に…会えるから…。
 
 夢の中で…。
 
 
 
 
 〜FIN〜
 
 
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